平気で「糖質オフビール」買う人の残念な重大盲点
食品添加物の現状や食生活の危機を訴え、新聞、雑誌、テレビにも取り上げられるなど大きな反響を呼んだ『食品の裏側』を2005年に上梓した安部司氏。70万部を突破する大ベストセラーとなり、中国、台湾、韓国でも翻訳出版され、いまもなおロングセラーになっている。
その安部氏が、『食品の裏側』を発売後、全国の読者から受けた「何を食べればいいのか?」という質問に対する答えとして、このたび『世界一美味しい「プロの手抜き和食」安部ごはん ベスト102レシピ』を上梓した。15年の間に書きためた膨大なレシピノートの中から、たった5つの「魔法の調味料」さえ作れば、簡単に時短に作れるレシピを厳選した1冊だ。
発売後、たちまち7刷6万部を突破し、各メディアで取り上げられるなど、大きな話題を呼んでいる安部氏が「平気で『糖質オフビール』を買う人が知らない残念な真実」について語る。
「糖質オフビール」に持つ大きな「違和感」
みなさん、ビールはお好きですか? 外飲みにしても家での晩酌にしても、「まずビール」というのが、多くの人の定番ではないでしょうか。
でもビールは糖質やカロリーが多いから、「糖質オフビール」を選ぶという人も増えているようです。「糖質オフビール」は今や大人気で、驚くほど多くの種類が店頭に並んでいます。
メタボを気にする私の友人も「家では糖質オフしか飲まない!」と言い切ります。値段が安いのも助かるそうです。
しかし、私は「糖質オフビール」に対して大きな違和感を持っています。
「糖質オフの問題」を挙げる前に、まずは「ビールの製法」についてごく簡単に説明しましょう。
ビールはまず、ビール大麦を発芽させて麦芽を作ります。この麦芽を砕いて、コメなどの副材料と混ぜ合わせて温度管理を行います。この過程で麦芽に含まれるでんぷんが、酵素の働きで糖に変わります(糖化)。同時にたんぱく質もアミノ酸に変わります。
これをろ過してホップを加え、酵母を入れて発酵させます。この酵母が糖を食べることにより、アルコールと炭酸ガスを作り出します。こうして出来上がるのがビールです。
発酵の際、すべての糖がアルコールに変わるわけではなく、一部は残留します。この糖やアミノ酸のおかげで、ビールのあの「芳醇な味わい」と「独特の風味」が醸し出されるのです。
また、でんぷん自体も、すべてが糖に分解されるわけではなく、一部は未分解のままで「中間物質」(デキストリン)となって残っています。この中間物質も「コク」「うま味」の1つになっています。つまり、ビールのうま味は「糖」にあるのです。
発泡酒・新ジャンルビールの味には「秘密」があった
「ビール」と「発泡酒・新ジャンル(第三の)ビール」の違いは「麦芽の量」と「副原料」です。発泡酒や新ジャンルビールは、税金対策で「麦芽の使用量」が少ない、あるいは麦芽を使っていないから、簡単に「糖質オフビール」を作ることができます。しかし麦芽が少ない、またはゼロだけに、「ビールのうま味」が足りません。
そのため、後述する「副原料」に加えて、「人工甘味料」「糖類」「酸味料」「調味料(アミノ酸)」などで味を補うのです。色も薄いから、「カラメル色素」を使ってビールっぽい色を付けたりします。つまり、それらのビールには「副原料」に加えて「添加物」が大きな役割を担っているのです。
実際にどんな材料で作られているのか。もう少し掘り下げて、それぞれの「裏ラベル」を見比べて解説しましょう。下記は、とある「糖質ゼロビール」「発泡酒」「新ジャンルのビール」それぞれの原材料です。
【糖質ゼロビール】
麦芽、ホップ、糖類
【発泡酒】 ※主に「添加物」でビールに近い風味を再現
麦芽、麦芽エキス、ホップ、大麦、糖類、酵母エキス、食物繊維/酸味料、乳化剤、香料、カラメル色素、甘味料(アセスルファムK)
【新ジャンル(リキュール)】 ※主に 「副原料」でビールに近い風味を再現
麦芽、麦芽エキス、ホップ、コメ、コーン、スターチ、糖類、スピリッツ(大麦)、 食物繊維、大豆たんぱく、酵母エキス/調味料(アミノ酸)、甘味料(アセスルファムK)、カラメル色素
*メーカーによって違いはあります
上記の表、あるいは、ご自身でスーパーの売り場などで「原材料ラベル」を見比べていただけるとわかると思いますが、ビール、発泡酒、新ジャンルビールの「裏ラベル」を見ると、ビールに比べて、発泡酒、新ジャンルビールには、「麦芽」「ホップ」以外の、さまざまな「添加物」や「副原料」が使われていることがわかります。
ちなみに「糖質ゼロビールなのに、なぜ糖類が入っているの?」という質問をよく受けますが、「糖類はアルコールの原料のために加えられており、 最終製品にはほぼ残らない」というのがメーカーの言い分です。
ただ、そもそも「糖質ゼロ」と謳っていますが、法律的には「100ミリリットルあたり糖質0.5グラム未満」なら「糖質ゼロ」と表示できるので、本当の意味での”糖質ゼロ”ではありません。言葉のイメージのみで過信せず、きちんと「裏ラベル」を見ることが大事という好例です。
発泡酒は「添加物」、新ジャンルは「副原料」が多い
一般論として発泡酒のほうが新ジャンルビールより「添加物」が多く、「副原料」は発泡酒より新ジャンルビールのほうが多くなる傾向にあります。それにはこんな「裏側」があります。
発泡酒は税金対策で麦芽を減らした分、コメ、コーン、スターチなどの「副原料」を使うことでビールに近づけていますが、総じてビールに比べてそれだけだと物足りなさがあるので「添加物」で補充することになります。あくまでもビールに近づけ「代替品」に仕上げるためです。
一方、新ジャンルは、麦芽をまったく使っていなかったり、発泡酒を原料に炭酸水とアルコール (スピリッツ )で増量していたりします。「麦芽の使用量」がさらに少ない、あるいはゼロのため、「副原料」にさまざまな食品を使います。たとえば「大豆たんぱく」は発泡性(泡立ち)をよくするために使われたりします。
いずれにせよ、発泡酒や新ジャンルビールは、「麦芽の量」を減らすことで、「糖質」を減らし、その代わり、「添加物」や「副原料」で味を補っているのです。だから糖質がセロでもビール風味の味になっているのです。
しかしそれは言い換えれば、消費者の立場でとらえると「平気で『糖質オフ食品』を買う人の3大深刻盲点」で述べたように、「糖質は摂らない代わりに、添加物は摂る」ことになるわけです。
ところが最近、「糖質ゼロビール」が登場し、業界で大きな話題を呼びました。これまでは「麦芽の使用量」が多いビールにおいて「糖質ゼロ」は不可能といわれていたのです。
なぜビールで「糖質ゼロ」を成功させることができたかというと、でんぷんを完全にブドウ糖に分解させ、さらに酵母がそのブドウ糖のすべてをアルコールに変えるという「技術」を開発したからというのが一因にあります。
すべての糖が「酵母のエサ」となって分解されれば、糖質はゼロになります。
これは本当にすばらしい技術であることは間違いないと思います。これは、「糖質オフビール」に限らず、どの食品の「糖質オフ」も、それぞれ各メーカーの技術革新、工夫の成果といえるでしょう。
「糖質オフビール」は本当においしい?
しかし、問題は「味」です。もちろん味覚には個人差があり、商品差もありますが、総じて「糖質オフビール」は、どれも「本物のビール」に比べて水っぽくて、ビール本来のおいしさを感じることができません。少なくとも私はそう思います。
「糖質こそがビールのうま味」と述べましたが、それを抜いてしまったら往々にして、一緒においしさも抜けてしまうのです。それゆえに「糖質オフビール」は、「ビール本来のおいしさ」を十分楽しむことができません。
みなさん、本当に「糖質オフビール」はおいしいと感じますか?
もちろん、「少々味が犠牲になっても、あるいは、発泡酒や新ジャンルで、ちょっとくらい添加物を摂取しても、糖質オフのほうがいい」という考え方もあると思います。それはそれで、もちろんいいのです。
ただ、そこで私が違和感を持ってしまうのは「その糖質オフビールで減らせる糖質は、はたしてどのぐらいなのか」ということです。
たとえば、うちの冷蔵庫にあった「ビールの糖質」は100ミリリットル3グラムです。350ミリリットル缶で10グラムちょっと、500ミリリットル缶でも15グラムです。
そもそも、この糖質はそれほど恐れるほどの量でしょうか?
それに比べて、ビールのつまみとしてよく食べられるフライドポテトは、Mサイズ(約135グラム)でも糖質が約40~45グラム、ポテトチップスなら1袋30~50グラム。餃子5つで約20グラム、唐揚げは2~3個で15グラムです。
「糖質オフ」でがんばって10~15グラムを減らしたところで、ランチに糖質の多いラーメンや餃子、フライドポテトを食べたり、あるいはビールと一緒にポテトチップスなどの「糖質の多いつまみ」を食べてしまったら、意味がないどころか、糖質超過になってしまいます。
「糖質の多いつまみ」を食べたら意味ナシ
あくまで私の感想ですが、「糖質オフビール」は何か物足りないから、どうしても味の濃いつまみが欲しくなってしまいます。冒頭に挙げた私の友人も、スナック菓子やポテトサラダなど「糖質の多いつまみ」を平気で食べながら「糖質オフビール」を飲んでいます。
そんなことをするぐらいなら、普通においしいビールを飲んで、つまみは野菜や豆腐など「低糖質」のものにするか、あるいはつまみを「ナシ」にすればいいのではないでしょうか。少なくとも私はそう思います。
私が15年かけて開発した『安部ごはん』には、私が酒好きということもあり、自ら開発した「低糖質のおつまみ」をいろいろ紹介しています。しかも、「魔法の調味料」さえ用意しておけば、手軽に作れるものがたくさんあります。
「イカ焼き」だって、焼いたイカに「かえし」を絡めるだけ、「焼きささみの梅和え」も「みりん酒」があれば簡単にできます。
少し時間があって「本当においしいつまみ」を食べたいビール好きの人には、「チキンバー」もおすすめです。「こんなにかみごたえがあり、鶏肉の凝縮したうま味が感じられるレシピが、自宅でできるのか」と、実際に作った人が驚くほどの「手羽肉専門店の味を再現した人気レシピ」です。
つまり、何がいいたいかというと、「糖質」といっても、要は「トータルの量」と「摂り方」次第だと思うのです。
もちろん個人の価値観にもよるでしょうが、毎日のようにビールを飲む私に言わせると、「糖質オフビール」で減らせる糖質には限界があるので、そちらを気にして「味」を我慢するよりも、「おいしいビール」を飲んで、その分、「つまみ」を工夫することで、結果的にトータルの糖質を減らしたほうが、よほど楽しく、おいしい食生活を過ごせると、今年70歳を迎えても健康そのものの私自身は、そう強く思います。
安部 司(あべ つかさ)Tsukasa Abe
『食品の裏側』著者、一般社団法人 加工食品診断士協会 代表理事
1951年、福岡県の農家に生まれる。山口大学文理学部化学科を卒業後、総合商社食品課に勤務する。退職後は、海外での食品の開発輸入や、無添加食品等の開発、伝統食品の復活に取り組んでいる。NPO熊本県有機農業研究会JAS判定員、経済産業省水質第一種公害防止管理者を務めつつ、食品製造関係工業所有権(特許)4件を取得。開発した商品は300品目以上。
2005年に上梓した『食品の裏側 みんな大好きな食品添加物』(東洋経済新報社)は、食品添加物の現状や食生活の危機を訴え、70万部を突破するベストセラーに。その他の著書に『食品の裏側2 実態編 やっぱり大好き食品添加物』(東洋経済新報社)などがある。