売れ筋飲料「茶系、炭酸、有糖・無糖」の選ばれ方
ソース: Toyo Keizai / 画像: 高井 尚之 /著者: 高井 尚之
その時の気分で「リラックス」と「リフレッシュ」
春夏秋冬と季節を問わずに手軽に飲まれる「清涼飲料」。暑い時期は止渇(しかつ=のどの渇きを止める)が中心だが、日本にはさまざまな味と種類がある。
カテゴリー別で販売量が多いのは「日本茶」、次いで「コーヒー」「炭酸飲料」「ミネラルウォーター」の順になっており、容器はペットボトルが主流だ(飲料総研の調査数値)。
「茶系飲料」と「コーヒー飲料」が強いのは、ホットでもアイスでも楽しめる通年性と健康意識の高まりも大きい。
別の調査では健康志向を反映して、国内市場全体での「無糖飲料製品」構成比は「2018年は約49%」(全国清涼飲料連合会調べ)と、半数が無糖になっている。ただし、消費者の選択意識は時に揺れ動き、その時の気分で変わることも多い。
前編「売れ筋飲料『水・コーヒー・茶系』が上位独占する訳」(9月21日配信)に続き後編は、消費者の心理を茶系飲料と炭酸飲料を中心に探ってみた。
上位の茶系ブランドも「無糖」が多い
まずは業界の専門メディア「飲料総研」の最新売り上げランキングとカテゴリー別を記してみた。なお、数量については前編記事をご参照いただきたい。
茶系飲料は無糖と有糖に分かれるが、上位ブランドの多くは無糖系だ。前述の「約49%が無糖」という数字を反映している。長年飲み慣れた「安心」意識も見逃せない。
茶系で最強ブランドは「お~いお茶」(伊藤園)で発売されたのは1989年。前身となる商品の発売は1985年で缶飲料「缶入り煎茶(せんちゃ)」という商品名だった。4年後に現商品名に変えると、以前の商品に比べて売り上げが倍増したという。
発売以来、ずっと緑茶カテゴリーではトップブランドで、消費者意識の変化に応じて「お~いお茶 濃茶」(2004年)や「お~いお茶 新緑」(2018年)などの派生商品も発売。ブランドの売り上げに上乗せされてきた。
「『お~いお茶』の強みはどこでも置かれていること。商品力・営業力とともに信頼性でしょうが、駅構内の売店でも商店街のパパママショップにもあります」(競合の担当者)
このように他社からも一目置く声が寄せられた。
“緑”を打ち出してV字回復した「伊右衛門」
近年V字回復を果たし、その後も好調なのが「伊右衛門」(サントリー食品インターナショナル)だ。「今年1~8月は対前年比で約110%」(同社)となっている。
2004年の発売後に大ヒットしたが、実は翌2005年をピークに販売量は落ち込んでいた。
「派生商品でブランド全体を支えましたが、本体の緑茶は右肩下がり。2019年には最盛期に比較して本体は約4割減で、コンビニの緑茶売り上げでは4番手。棚落ち寸前でした」
多田誠司さん(サントリー食品インターナショナル ジャパン事業本部 ブランド開発事業部部長)はこう明かす。消費者調査を行うと、商品自体のイメージも希薄だった。例えば「伊右衛門と言われて思いつくものは?」という質問には、「モっくん、りえちゃん」(CMに登場する俳優の本木雅弘さんと宮沢りえさん)という答えが目立った。
そこで行ったのが、売り場で商品を見たお客さんに“脊髄反射”してもらう作戦だ。
「最大の特徴は、独自の技術で緑茶本来の鮮やかな緑の水色(すいしょく)と、味・香りを両立したこと。そうした技術にこだわる一方で、商品訴求は『色』で打ち出しました。
商品の中身が見えるよう、容器を覆う面積の少ないロールラベルも採用。売り場で商品を見たお客さまに“脊髄反射”していただく取り組みです」(多田さん)
ここでいう脊髄反射とは、瞬間的に「買ってみたい」と思わせる意味だ。実は、「ペットボトル緑茶を飲む消費者のうち、月に1本未満しか飲まない層が半数以上」だという。そこでターゲットを「緑茶ライト層・無関心層」に設定し、売り上げ回復を果たした。
紅茶で最も強い「キリン 午後の紅茶」は1986年の発売以来35年。日本で初めてのペット容器の紅茶(発売時は1.5リットル)として、手淹れで手間がかかるアイスティーを再現した。
「今年7月の販売実績は、レギュラー(ストレートティー・ミルクティー・レモンティー)3品が好調で、おいしい無糖も2割増、ブランド全体では対前年比104%となっています」
広報担当の安平裕太郎さん(キリンホールディングス コーポレートコミュニケーション部)はこう説明し、ブランドのこだわりを次のように明かす。
「35年で商品ラインナップ、容器サイズは拡大し、ホット飲料も投入しましたが、『茶葉から淹れた紅茶のおいしさ』と『紅茶の飲用シーンを拡げる』を大切にしています。
また、ブランドロゴには発売時から『アンナ・マリア』(7代目ベッドフォード公爵夫人。アフタヌーン・ティーの習慣を始めた存在)と明朝体の文字表記を採用しています」
意外にも、紅茶市場では「有糖カテゴリーがシェア約8割」だという。「無糖も成長しており『午後の紅茶 おいしい無糖』も好調ですが、有糖紅茶しか飲まない消費者も約6割おられます。ブランドとして、さまざまなお客さまニーズに対応しています」(同)。
商品別では「ミルクティー」が人気ナンバー1。免疫ケアのためにプラズマ乳酸菌を配合した「ミルクティープラス」も10月に発売する。消費者から“午後ティー”と呼ばれる親しみやすさもブランドの強みだろう。
手軽な気分転換に「炭酸」は欠かせない
気分転換には欠かせない炭酸飲料も健康志向を反映している。
「ウチの夫は風呂上がりに(無糖の)炭酸水を飲む機会が増えました。炭酸飲料でスッキリしたいけど糖分摂取が気になるようです」(30代の女性会社員)
通勤で歩く機会も減った現在、こんな声に象徴されるのだろう。
その炭酸水をリードするのが「ウィルキンソン」(アサヒ飲料)だ。炭酸水では約5割のシェアを持ち、発売は明治時代という百年ブランド(117年)。2008年から2020年まで13年連続で伸長した。競合も参入した結果、店頭の棚が「線」から「面」へと広がった。
「好調の要因はいくつかあります。まず炭酸水は味がないゆえに、飲んだ瞬間にダイレクトな刺激がある、ど真ん中の飲料なこと。消費者が、炭酸飲料でリフレッシュしたい思いは昔からありましたが、ストレス解消への思いは、より強まったと感じています」
同ブランドを担当した本松達朗さん(当時アサヒ飲料 マーケティング本部マーケティング一部 炭酸グループ副課長。現在はアサヒグループ食品)は以前の取材でこう話したが、今も基本は変わらない。
「ストレス解消の思いは強まった」を裏づけるのが強炭酸だ。「のどに少し痛いような刺激が心地よい」という消費者もおり、競合の「サントリー天然水」も今年「THE STRONG 天然水スパークリング」を発売した。「刺激があれば味はいらない」と思う人も多く、ウィルキンソンで圧倒的人気は赤ラベルの「ウィルキンソン タンサン」だ。
コカ・コーラも消費者の「避糖化」を意識
「コカ・コーラ」(日本コカ・コーラ)は世界最強の百年ブランド(誕生は1886年、日本上陸後も1世紀以上)として他業界からも一目置かれる存在だ。日用品ブランドを取材した際、「100年、世界中で愛されるコカ・コーラのようになりたい」という声も聞いた。
国内販売数量は底堅く、これだけブランドが林立する現代でも上位の一角を占めており、ライバルの「ペプシコーラ」(サントリー食品インターナショナル)の6倍以上ある。
大黒柱の「コカ・コーラ」(レギュラーコーク)を「コカ・コーラ ゼロ」(糖質ゼロ・カロリーゼロ)「コカ・コーラ ゼロカフェイン」(上記に加えてカフェインゼロ)が支え、消費者の「避糖化」(できるだけ糖を避ける)にも対応。後者2商品の合計は前者の約4割まで伸びた。アメリカ発のブランドは日本市場にもきめ細かく対応する。
派生商品で攻める「三ツ矢」ブランド
「三ツ矢」(アサヒ飲料)はコカ・コーラの2年前(1884年)に誕生した和製ブランドだ。本体の商品パッケージには「SINCE 1884」の文字が控えめに主張する。
大黒柱「三ツ矢サイダー」(本体)は炭酸飲料の販売数量ではコカ・コーラに次ぐが、幅広いフレーバーの派生商品も次々に投入。近年は攻めの姿勢も特徴だ。
「三ツ矢ブランドは、まず水にこだわります。ろ過を重ねた安心・安全な磨かれた水を使い、保存料や着色料も使用しません。定番の三ツ矢サイダーに代表される透明な液体は、着色料などでごまかせないのです。フレーバーも高付加価値にシフトしています」
水上典彦さん(アサヒ飲料 コーポレートコミュニケーション部。取材当時は同社マーケティング本部マーケティング一部 炭酸グループグループリーダー)はこう話した。
同ブランドは種類も多く、カロリーや糖質も異なる。例えばカロリーが少ないのは「三ツ矢サイダー ゼロストロング」などだ。それも意識して楽しみたい。
前後編の2回で見た話を整理しよう。状況としては「大きな流れでは無糖の支持が続きますが、消費者はその時の気分に応じて有糖も楽しみます」(サントリー食品の多田さん)。
たとえば、夏の麦茶飲料などは600~650ミリリットルの増量も出回るが、「ジョージア」のように200ミリリットル未満の小容量も発売される。消費者心理はどこにあるのか?
「基本的には大は小を兼ねると思います。特に夏場はごくごく飲みたいですよね。ただ、少しの量で気分転換を図りたい心理はあるでしょう。
また、コロナ禍で支持されたのが衛生意識。伊右衛門も『お茶、どうぞ』(195ミリリットル)を出しましたが、想定の3倍売れた。一般消費者もそうですが、クルマのディーラーや住宅展示場などの来店客向けに、従来の急須で淹れるお茶の代わりに重宝されたとも聞きました」
気が滅入る生活で、清涼飲料も「エンタメ化」
多田さんは「飲料を飲む意識には止渇以外に、大きく分けて『リラックスとリフレッシュ』があります。ミルク系はリラックス、炭酸系はリフレッシュです。緑茶はこの2つに加えてヘルシーもあるのが強い」と説明する。
以前からもあったが、コロナ禍で強まったのが「飲料のエンタメ化」だ。
「多くの社会人は取引先の訪問や出張も制限されて在宅勤務が増えました。そうなると身近な飲料でエンタメ化を行ったりもします。瞬間リフレッシュで強炭酸やエナジードリンクを飲んだり、逆に一息ついたら抹茶ラテなどで癒したりもします」(同)
他社の担当者からも「消費者のその時の気分がどんどん多様化している」と話を聞いた。
マーケティングや商品開発現場の共通認識に「背徳の飲食は楽しい」というのもあるが、日本の消費者はどこかでバランスを取ろうとする。こってりした食事と一緒に無糖飲料を飲んだり、お酒を飲みすぎたら別の日に野菜飲料を飲んだりもする。
清涼飲料市場は約5兆円の巨大市場だ。消費者の興味・関心はどこにあるのか。今後もメーカー各社はその本音を探り、商品を通じて訴求していく。