「プラスチック容器の使用が心臓病リスクを高める」海外研究で明らかに。その理由は?

プラスチック容器に入ったテイクアウトが、実はあなたの健康に害を与えているかも。

ソース: Women’s Health By Korin Miller and 川畑 幸絵公開日:2025/03/23

LB Studios//Getty Images

 

家で毎食手作りしない限り、プラスチック容器に入ったご飯を食べる機会は、誰にでも少なからずあるはず。だが、新たな研究によると、こうした容器から溶け出す化学物質が心臓病のリスクを高める可能性があるという。

この研究結果は、マイクロプラスチックやプラスチックに含まれる化学物質が心臓の健康に悪影響を及ぼす可能性を示す、これまでの研究結果をさらに裏付けるものとなった。

医師たちは過剰に反応する必要はないとしつつも、この発見には無視できない重要な点があると強調している。つまり、テイクアウトの習慣や、使用する容器の見直しを検討したほうが良いかもしれない。押さえておくべき内容はこちら。

研究で明らかになったこと

学術誌『Ecotoxicology and Environmental Safety』 に掲載されたこの研究では、2つの調査が実施されている。1つ目は、研究者たちが3,000人以上の人々にプラスチックへの曝露と心臓病の有無について調査したところ、プラスチック容器から食事をとることを含め、頻繁にプラスチックに晒されている人は、心不全を発症するリスクが高いことが明らかになった。心不全とは、心臓が体の必要に応じて十分な血液を送り出せない慢性的疾患。実際、研究者たちは、プラスチック製のテイクアウト容器に曝される頻度が高いほど、心不全を発症するリスクが13%高くなることを発見している。

2つ目の調査では、 マウスを使った実験が行われた。研究者たちは、プラスチックのテイクアウト容器に沸騰したお湯を注ぎ、1分、5分、15分と時間を置いて、プラスチックから化学物質を溶出させ、そのお湯を3ヶ月にわたってマウスに与え続けた。研究期間終了後に、マウスの糞便を分析したところ、腸内細菌に変化が見られたほか、マウスの心臓組織に“広範な”損傷が確認されている。

さらにその損傷は、マウスが摂取した水の煮沸時間に関係なく発生している。従って研究者たちは、短期間のプラスチック曝露でさえも、心血管疾患の“重大な”リスク因子であると結論付けている。

プラスチック製の容器が心臓病の発症リスクを高める理由とは?

研究者たちは関連性を発見しただけであり、理由についての詳細は言及していないものの、いくつかの仮説が挙げられている。

その一つは、プラスチック容器から食品に溶出する化学物質が、腸内細菌叢(腸内に生息する細菌の生態系)を変化させる可能性があるというもの。「それが炎症を引き起こし、心臓にダメージを与えるのです」と説明するのは、カリフォルニア州サンタモニカにあるプロビデンス・セント・ジョンズ・ヘルスセンターで心臓リハビリテーションセンターの医長を務める心臓専門医のリグヴェッド・タドウォーカー医学博士。

さらに、研究者たちはプラスチックの化学物質への曝露自体が炎症や酸化ストレスを引き起こし、心筋にダメージを与える可能性があると指摘している。酸化ストレスとは、体内のフリーラジカルと抗酸化物質のバランスが崩れ、細胞が傷つくこと。こうした影響はすべて、「心血管疾患と密接に関連している」と研究者たちは記述している。

これに加えて、ビスフェノールA(BPA)、フタル酸エステル類(PAEs)、可塑剤など、特定のプラスチックに含まれる化学物質が、心血管疾患の発症リスクを高める直接的な要因であることも指摘されている。

ミシガン州立大学の薬理学・毒物学の准教授、ジェイミー・アラン博士によれば、間接的な影響も考えられるという。「テイクアウトを利用する人々は、通常、ナトリウムや脂肪分を多く摂取しているため、それだけでも心不全のリスクが高まる可能性があります」とアラン博士。

どの程度、懸念すべき?

昨晩食べたテイクアウトについて不安になる前に、いくつか心に留めておくべきことがある。一つは、この研究が単にプラスチック容器から食事をとることと心臓病との関連を発見したに過ぎないということ。「この研究結果は、プラスチック製品の使用がうっ血性心不全を引き起こすと決定的に証明するものではないことを覚えておくことが重要です」と話すのは、メッドスター・ヘルス社の毒物学者、ケリー・ジョンソン・アーバー医学博士。それでも彼女は、プラスチックに含まれる化学物質と健康への悪影響との関連性を示す証拠が増えていることを強調した。

テイクアウト食品を食べる際の加熱も問題であると、ジョンソン・アーバー博士は指摘。「テイクアウトの料理は、プラスチック容器に入れたまま再加熱することが多いはずです。プラスチック容器ごと温め直したり、保温されたりすると、食品と一緒にプラスチックの副産物を意図せず摂取しやすくなります」

ただし、マイクロプラスチックへの曝露だけで心臓の合併症につながるとは言い難いよう。「マイクロプラスチックや化学物質がこれらの容器から滲出し、有害であることがわかっているという意味では、関連性は確かに存在しますが、心臓病は多因子性疾患です」とタドウォーカー医学博士。遺伝的要因が大きな役割を果たすこと、そして食生活や運動習慣、空気の質などの環境要因が関与していることも強調した。

あくまで包括的アプローチの一部

「プラスチック容器の使用を減らすことは最優先事項ですが、あくまでそれは心臓の健康を守るための包括的なアプローチの一部に過ぎません。定期的な運動、バランスの取れた食事、定期的な健康診断も非常に重要です」とタドウォーカー医学博士。

この研究では、少量のプラスチック容器への曝露でも心臓の健康に良くないと示唆されているが、タドウォーカー医学博士によると、「たまに使う程度なら問題ない」とのこと。「重大な健康リスクをもたらす可能性は低いでしょう。確かに考慮すべきではありますが、心疾患のリスクを減らすには、他にも優先すべき対策があります」。つまり、定期的に運動し、心臓に良い食事を心がけているなら、たまにプラスチック容器に入ったご飯を食べたからといって、深刻な心血管疾患を引き起こすリスクは低いと言えるよう。

ただし、ジョンソン=アーバー医学博士は、プラスチック容器に入れたまま食品を温めることだけは避けるように勧めている。「食品からプラスチックを摂取するリスクを減らすには、テイクアウトの料理を温めたり食べたりする前に、プラスチック製でないお皿に移し替えることが賢明です」

※この記事はアメリカ版ウィメンズヘルスの翻訳をもとに、日本版ウィメンズヘルスが編集して掲載しています。

Text: Korin Miller Translation : Yukie Kawabata


Korin Miller

Korin Miller is a writer who specializes in wellness, commerce, and lifestyle trends, with bylines appearing in Prevention, Yahoo News, Forbes, Food & Wine, and more. Korin is a former competitive runner and Division I athlete with six state championships under her belt. She has a master’s degree in new media from American University, and has more than a decade of health reporting experience. Korin has been ranked one of the most viewed journalists on Muck Rack for three years in a row. A former New York City resident, Korin now lives at the beach. When she's not writing, Korin can be found chasing her four young kids around and occasionally trying to get some sleep.

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川畑 幸絵

翻訳者

短大卒業後バンクーバー、メルボルンで2年留学した後、外資系客室乗務員として勤務。2018年に退職後、翻訳者としてフリーランスに転身。アメリカで統合栄養学を学んだ経験もあり。