睡眠不足の人ほど「ジャンクフード」食べまくる訳

ソース: YAHOO JAPAN / 画像: freeangle/PIXTA / 著者: 堀田 秀吾/明治大学教授

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「ジャンクフード」に打ち勝つ方法を紹介(写真:freeangle/PIXTA)

なぜ体重や健康が気になっている人でさえ「ジャンクフード」の魅力には逆らえないのか?  ジャンクフードをやめるための解決策を、明治大学法学部教授の堀田秀吾氏と、医師の木島豪氏の共著本『科学的に自分を思い通りに動かす セルフコントロール大全』より一部抜粋・再構成してお届けします。 ■なぜ「ジャンクフード」はやめられないのか?   体重や健康が気になっているのに、いわゆる「ジャンクフード」が大好きでやめられない人は少なくないと思います。「わかっちゃいるけど、やめられない!」とはよくいったものですが、どうしても体がジャンクフードの味を求めてしまうときがあります。

 ハンバーガーなどのファストフードや、ポテトチップスやチョコレートなどのお菓子が、健康にいい食べ物といい切れないのは事実です。とは言え、そういう食べ物ほどおいしく、ついつい手が伸びてしまうから不思議ですよね。  ジャンクフードに手を伸ばすことをやめることはできないのか?  実は、そんなときに活用できるセルフコントロール法があります。その前に、脂と糖についておさらいしておきましょう。  日本マクドナルドが、2021年2月9日に発表した2020年12月期決算を見ると、売上高は2883億3200万円で前年同期から2.3%増。営業利益に関しては312億9000万円で前年から11.7%増という素晴らしい業績を上げています。脂と糖はおいしく、体に悪いものほど魅力的に感じてしまうというのは、上記の数字を見ても明らかでしょう。

 進化心理学的な視点で考えると、これらは野菜などに比べると入手が困難なご馳走で、もともとたくさん食べられる環境ではありませんでした。しかし、時代は進み、文明の発達により、脂や糖が多く含まれたご馳走を簡単にたくさん入手することができるようになりました。もともと貴重だったものですから、現代人はついつい食べすぎてしまうわけです。  もちろん、脂や糖は人間に必要な栄養素です。しかし、粗食を心がけていても、実は日常で必要な分量を十分に摂れている。そのためジャンクフードを食べすぎると、脂や糖の過剰摂取になって太ってしまうというわけです。

 コロナ禍で、オーガニック食品や健康食品の売り上げが急増し、同時にクッキーや塩分の多いスナック菓子の売り上げも急増しているそうです。一方で、アイオワ大学のガローニらは、「不安や嫌悪感に直面すると、人は慣れ親しんだ選択肢に目を向ける傾向がある」と公表しています。 ■原因は「脳の機能低下」にあった  コロナ禍という非常時だからこそ、かつての日常生活を取り戻そうと、人は日頃やっていた行動をなぞろうとする――。つまり、ジャンクフードの量を減らしたいと思っていたとしても、いつもジャンクフードを食べていた人は変わらずにジャンクフードを買い求めてしまう、と。なかなか手を止めることができないのには、やはり理由があるのです。

 「自分は疲れているからジャンクフードを食べたくなっているんだろう。体が欲しているのだから食べてしまうのは仕方のないことだし、悪いことではない」と考えている人も少なからずいると思います。  しかし、実はそうではありません。疲れたから体が欲して食べたくなっているのではなく、疲れているから歯止めが効かなくなってジャンクフードに手が伸びてしまう……、普段は身体に悪いからやめておこう、我慢しようと思っている抑制のフタが外れてしまった結果、ポテトチップスの袋を開けてしまうのです。

 「(左の背外側にある)前頭前皮質の機能を一時的に低下させると、カロリーが高い食べ物を欲するようになるだけでなく、実食においてもジャンクフードを食べる傾向が高くなる」とは、カナダのウォータールー大学のロウらの研究です。  前頭葉は注意力、集中力、判断力などと関係し、感情や欲求を抑制する脳の大切な部位です。そのため前頭葉の機能が低下すると、普段は悪いからやめよう、我慢しようと思っていることについての判断が鈍くなり、我慢ができなくなってしまいます。また、背外側前頭前皮質の機能低下は、ストレスが原因で引き起こされることもわかっています。

つまり、ストレスが蓄積して、脳の背外側前頭前皮質の機能低下が生じると、それに応じて判断が鈍ってしまうというわけです。  この研究は、ジャンクフードを食べたいという気持ちになってしまう原因は、脳の機能低下にあるということを明らかにしています(悲しいかな)。たしかに、ジャンクフードは美味しいです。だからこそ、脳にその美味しさが刷り込まれていて、脳が十分に休めていないからこそ“止まらない”のです。  考えようによっては、本来我慢しなければいけないジャンクフードを食べてしまうということは、脳が十分なリフレッシュを取れていないことでもあります。休息を促すサインでもあるわけですから、ジャンクなものを食べたくなったら、仮眠など身体を休ませることを意識したほうがいいと言えるでしょう。

 実際に、カリフォルニア大学ロサンゼルス校のモティヴァラらの研究では、睡眠負債を抱えていると、不健康な食事を欲するようになるということを明らかにしています。  睡眠不足になると、成長ホルモンの分泌を促し、食欲を増進させる働きを持つグレリンという物質と食欲の抑制に関わるレプチンという物質のバランスが崩れます。そのため、体に悪いものを食べたくなる衝動に駆られるというのです。  不健康な食事は、かつては貴重な脂質と糖という栄養分が豊富なものばかり。睡眠不足という体の危機に、てっとり早く脂質や糖などの栄養を体に摂り込めるので、欲求が向かいやすいというわけです。

 なかなか睡眠を確保できないという方には、「ガムを噛む」ことでブレーキをかけることをおすすめします。カロリーたっぷりのハンバーガーでも、脂が滴り落ちるチキンでも、糖分たっぷりのお菓子でも、これらを食べたい気持ちの根源は食欲です。空腹ではないけれど、脳が糖分を求めているといったシチュエーションもあるかもしれませんが、基本的には食欲そのものを抑制することで、ある程度、不健康な食べ物を我慢できるようになります。

ルイジアナ州立大学のガイゼルマンらによる研究では、3時間に1回15分間ガムを噛むことで食欲を抑えることができるという結果があります。空腹を紛らわせるうえに集中力を上げる効果もあります。そして、すでに口のなかにガムが入っていれば、さらに食べようとする気持ちになりにくいとも。 ■食事内容をスマホで記録してみよう  また、興味深い研究として、レバノンアメリカン大学のドーミットらによる、「食事をスマホで撮影して記録すること」の有意性が挙げられます。この研究では、3日間毎食写真を撮ってアプリにアップして記録することで、肉より野菜を食べる量が増えたという結果が報告されています。文字で記録する普通のレコーディングダイエットよりも、わずかながら、摂取カロリーが低いという傾向も見られたといいますから、ジャンクフードを記録することで自らに抑制を働かせる効果も期待できそうです。

 最後に、「それでも食べてしまった……」と後悔を抱く方にアドバイスを。もし食べるのであれば、何かしら理由(疲れているから仕方がないんだetc)を付けてジャンクフードを食べるのではなく、いっそのこと、「私は好きで食べているんだ」と割り切った方がいいということ。自己決定は、自らの幸福度を上げる効果がありますから、「この選択は自分を満足させるために好きで食べているんだ」と考えることで、幸福度も高まり、脳も安心感を覚えます。

 罪悪感にさいなまれながら食べると、ますます脳がストレスを抱え、どんどん抑制のたがが外れてしまい、さらにジャンクな食べ物を求めるなんて可能性も……。食べたいときは、せめて自己決定感を持って袋を開けるようにしてください。